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青春ほろ苦ガンプラ道
青春ほろ苦ガンプラ道 第5回
『リアルタイプ、それは迷彩の罠』

 皆さんこんにちは。世間ではそろそろジングルベルなんかも聞こえ出す時期ですが、クリスマスが近づくたびに切ない思い出がキュンと胸をしめつける、いまだに思春期(*1)真っ盛りな岸本みゆきが今回もお届けします。
 さて、前回(*2)は情景模型シリーズというガンプラを紹介しましたが、実はこの他にも、ガンプラには様々な派生商品が存在します。その中のひとつが今回紹介する「リアルタイプ」シリーズ。まるで実在の兵器を思わせるようなカラーリングで、背伸びをしたい年頃の少年達の心をグッと掴む大人のテイスト…と書けば聞こえはいいんですが、要はコレ、今までのプラモの成型色を変えた商品なんですよね。
 なぜ本線ではなく、そんな変わった商品ばかりシリーズ化されるのか。ブームに乗って、次から次へと新しいモビルスーツがプラモ化されていったのはいいものの、1年もすると、劇中に登場する全てのメカの商品化が完了(*3)してしまったんです。そこで考え出された苦肉の策がこの、リアルタイプシリーズでした。
 それでも売れてしまうんだから、ブームって本当に凄いなと思いますよ。

(*1)いまだに思春期…見た目は大人、中身は子供。
   真実はたったひとつのピーターパンシンドローム。
(*2)前回…くわしくはこちら↓
   第1回『ガンダム、Gファイターに立つ!?』
   第2回『父よ、それはソルティックだ!』
   第3回『おもちゃ売り場に戦場を見た!』
   第4回『荒野に散った紅いゲルググ』
(*3)全てのメカの商品化が完了…当時のバンダイ営業部では大問題だった。
   次期商品化検討案にはサイド7までもが挙がっていたらしい。
   売られていたら、それはそれで面白かったと思うが。


「凄い…オヤジが熱中するワケだ!」
 もちろんみゆき少年も買いました、リアルタイプ。連邦何するものぞというジオン派のみゆき少年が選んだのはゲルググ。パッケージの横には、夜間出撃仕様や砂漠戦仕様など、超カッコイイ迷彩塗装例が紹介されています。箱を開けると、実在の戦車や戦闘機のプラモに貼るような、ミリタリー色ムンムンのデカール(*4)たち。これはまるで、ドイツ軍じゃないか!
 みゆき少年の父は大のドイツ軍ファンで、メッサーシュミット(*5)ユンカース(*6)フォッケウルフ(*7)など、大戦中の様々なドイツ空軍機のプラモが部屋に飾られていました。以前、組み立てたソルティック(*8)をメッサーシュミットの横に並べてみたところ、父親に苦笑いをされてしまった経験もあり、このリアルタイプなら違和感なく並べられるのではと。
 「フフフ…やってやる! 今日から俺もルフトヴァッフェ(*9)だ!」
 ロンドン上空を飛び回る勇姿を想像しながらゲルググを組み立てるみゆき少年。このあたりの発想がすでに何かズレてるような気もしますが、とりあえず素組みは完成しました。さて、いよいよ一世一代の迷彩塗装だが…。

(*4)デカール…模型に貼る水転写シールのこと。
   塗装だけでは難しいロゴや書体の再現に使用する。
   普通のシールと違い、綺麗に貼るにはそれなりの技術が必要。
(*5)メッサーシュミット…ドイツの航空機メーカー。
   一般的にメッサーシュミットというと、第二次大戦中のドイツ空軍の
   傑作戦闘機・Bf109(Me109)シリーズのことを指す。
   大戦初期の主力・E型(エミール)をはじめ、F型(フリードリヒ)、
   後期主力のG型(グスタフ)など様々な改良派生型が開発された。
   総生産数は戦闘機史上最多の約33,000機を誇る。
   その開発背景などが、どことなくザクを連想させる。
   Bf109の他にも、世界初のジェット戦闘機・Me262など…
   というか、こういうことを書き出すとまったくキリがないので、
   興味のある人は自分で調べてね。
(*6)ユンカース…メッサーシュミットと同じく、ドイツの航空機メーカー。
   こちらは急降下爆撃機のJu87シュトゥーカが有名。
   急降下時に鳴り響く独特の風斬音が(以下略)
(*7)フォッケウルフ…ドイツの航空機メー(略
(*8)ソルティック…『太陽の牙ダグラム』に登場するコンバットアーマー。
   コードネームじゃなく製作メーカー名で呼ばれるのがドイツ軍っぽい。
   あまり詳しくないが第2回を参照のこと。
(*9)ルフトヴァッフェ…ドイツ空軍のこと。
   みゆき少年は何でもすぐに感化される。


( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \
 まあ普通は組み立てながら、あるいは組み立てる前にもある程度はあらかじめ塗装しておくんですよね。当時のガンプラは接着剤を使用して組むため、一度組み上げてしまうとパーツを外せない。しかも、今回は迷彩塗装(*10)というかつてない難易度の塗装に挑戦するわけです。ただでさえ不器用なみゆき少年に、完成状態のまま迷彩を施すなどという荒業ができるはずがありません。
案の定、みゆき少年のゲルググは取り返しのつかないことになりました。ロンドン上空のルフトヴァッフェどころか、肥溜めに落ちた田舎のゲリラにしか見えない俺ゲルググ仕様。仕方がないので、父親が使っていたタミヤカラー(*11)の黒鉄色をこっそりくすね、夜間迷彩に上塗りしようとしたところこちらも大失敗(*12)。むしろ恥を上塗りしてしまったみゆき少年、もはや涙目。

(*10)迷彩塗装…実在兵器にも施されるカモフラージュ用の偽装工作。
   軍隊の迷彩服をイメージしてもらえばわかりやすいと思う。
   雪原迷彩では白一色、夜間迷彩では真っ黒と単色の場合もあるが、
   たいていは数色のまだらや斑点、縞模様などを組み合わせる。
   数ある模型塗装技術の中でもかなり上級者向けの難度。
(*11)タミヤカラー…ラジコンや実在兵器のプラモなどで有名な模型メーカー、
   タミヤから発売されている模型用の塗料シリーズ。
   黒鉄色は主に航空機のエンジン部分や戦艦の塗装などに使用する。
(*12)大失敗…ドドメ色になった。


残念ながら、処置不能です。
 困り果てたみゆき少年は、隣に住む親戚のイチロー兄さん(*13)に相談しました。これまでにもレゴブロック(*14)で宇宙戦艦ヤマトをこしらえたり、みゆき少年が台無しにしてしまったガンプラを再生してくれたりと、手先の器用さには定評のあったイチロー兄さん。そのイチロー兄さんをして、「これはひどい」と言わしめたみゆき少年のゲルググ。そのカオスぶりが窺えますね。
 「だからやめとけと言っただろう。お前にガンプラは無理だ」
 イチロー兄さんの冷たい言葉が胸に突き刺さります。何とかしてやるから置いとけと言ってくれたものの、しかし、みゆき少年にも意地があります。このままじゃ終われない…! このままじゃ俺は、一生 「塗装おヘタ」(*15)のレッテルを貼られたままだ! そうだ…もうイチロー兄さんの手は借りない。このゲルググは俺が、俺の手で再生してやるッ!
 決意も新たにゲルググと向き合うみゆき少年は、まず一から塗装コンセプトを考え直すことにしました。いっそのこと迷彩はあきらめ、オリジナルの配色でエースパイロット仕様にしてはどうだろうか。模型雑誌で紹介されてる作例のように設定をつけ、俺だけの新たなストーリーを生み出す。その名も俺専用ゲルググ! おお、これならいけるぞ!
 それなら最初からリアルタイプなんて買うなよという突っ込みはさておき、みゆき少年が選んだそのベースカラーとは…!?

(*13)イチロー兄さん…キカイダー・ゼロワンのことではない。
   みゆき少年の祖母の弟の息子。母親のいとこにあたる親戚。
   現在はプロの三味線弾き。どうやら根っから指先は器用だったようだ。
(*14)レゴブロック…デンマークのLEGO社が販売しているブロック玩具。
   子供の創造力を養うのに、これほど素晴しい玩具はないと思う。
(*15)塗装おヘタ…塗装のヘタクソな者に贈られる不名誉な称号。
   イチロー兄さんの造語で、主にみゆき少年への罵倒に使用される。
   他にも「シールおヘタ」や「ニッパーおヘタ」などがある。


まるで、金色の草原を歩いてるみたい。
 皆さんも想像してみてください。夜間迷彩に失敗したドドメ色の上から塗ったために、おぞましい色に変化したゴールドのベース。奇天烈なブルーの模様が、さらに変態的な印象を与えます。これは、魔界の使者(*16)か…?
 開発途中で放棄され、そのまま闇に葬られてしまった可哀相な俺専用ゲルググ。ゴールドとブルーという配色は、やはりミスチョイスだったのでしょうか。いや、そうではありませんでした。なぜならこの3年後、同じ配色で超カッコイイMS、百式が登場しているではありませんか。そうです、みゆき少年の選択は別に悪くはなかったのです。ただ、あまりにも「塗装おヘタ」すぎた。


 「ダメだよ…あたい、もう心が折れちゃった…」
 完全に自信を失い、モデラーとしての道を自ら閉ざしてしまったみゆき少年。もう二度と立ち上がることはできないのか…!?

(*16)魔界の使者…廃棄してしまったので想像してもらうよりないが。
   ゴールドの塗料は分離しやすいので上手く塗るには技術がいる。
   ましてや何も考えずに黒の上から塗るなど愚の骨頂。
   この場ではとても表現できない色になるぞ。


次回、「青春ほろ苦ガンプラ道」最終回
『ガンプラ再チャレンジ世代の挑戦!』
新たな世紀へ、翔べ! ガンダム!!
次回の更新は12月27日(木)17時予定です。

岸本みゆき(フリー脚本家)

【プロフィール】
岸本みゆき(きしもと・みゆき)
1973年生まれ、フリー脚本家。巨大ロボと変身ヒーロー、時代劇をこよなく愛する熱血関西人。現在はテレビアニメ『結界師』のシナリオの他、『SDガンダム三国伝』の構成なども手がけている。

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