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青春ほろ苦ガンプラ道
青春ほろ苦ガンプラ道 第4回
『荒野に散った紅いゲルググ』

 皆さんこんにちは。とうとうガンダム00が始まりましたね。でも、ダブルオーと言えばどうもキカイダー(*1)の方を連想してしまう、そんな30代真っ盛りな岸本みゆきが、今回も苦味たっぷりにお届けします。
 さて、「男子厨房に入らず」(*2)なんて言葉も今は昔。料理のデキる男は女性にモテモテらしいんですが、残念ながら僕は包丁を握ることができません。怖いんです。恐ろしいんです。あのギラリと光る刃が……。
 いわゆる尖端恐怖症(*3)というヤツでして、症状は軽度ではあるんですが、刃物全般から箸やシャーペンの先、さらには人に指先を向けられただけでも精神的に動揺してしまいます。なんか眼の中に飛び込んできそうな感覚に襲われるんですよね。女性が手のひらの上で豆腐を切る姿など、いつか指をスッパリいっちゃうんじゃないかと思って、見てるだけでヒヤヒヤします。
 なぜそんなことになったのか。それを知っていただくにはまず、少年時代のあの苦い苦い思い出を語らなければなりますまい…。

(*1)キカイダー…言うまでもなく、超有名な特撮TVヒーロー。
   原作マンガ版ではキカイダー・ジロー、ゼロワン・イチローの他に、
   第3のキカイダー、ダブルオー・レイというのが登場する。
   良心回路を持たないため、敵に対しては情け容赦ない。超強いぞ。
(*2)男子厨房に入らず…実はこの言葉、「料理なんてのは女の仕事だから、
   野郎が厨房に立つと沽券に関わるぜ」などという意味ではない。
   元々は大昔の中国の言葉で、「君子たるもの、生き物が殺されている
   料理の現場には、可哀相なので近づくべきではない」という意味。
   まあ筆者は言語学者ではないので、詳しくは自分で調べてね。
(*3)尖端恐怖症…先端恐怖症とも書く。
   筆者のイメージでは、「先端」よりも「尖端」の方が恐怖感が増す。
   何年かBARでバイトをしていたことがあるのだが、
   アイスピックで氷を砕く行為は本当に苦痛だった。
   あと、レモンスライスもカンベンな。

情景模型「テキサスの攻防」
 毎度毎度(*4)ずっと書いてることなんですが、僕たちの少年時代は本当にガンプラが入手しにくかった頃でしてね。何軒ものおもちゃ屋さんを駆けずり回って、ようやくムサイが買えましたとかそんな状態。ふと立ち寄った模型店で、情景模型シリーズ「テキサスの攻防」という箱を見つけたんです。
 パッケージに雄々しく描かれた、ガンダムとゲルググの対峙する姿。なぜかガンキャノン(*5)もついてるぞ! うお、三体も入ってこの値段(*6)かよ! なんてお買い得なセットなんだ! フフフ……バンダイのヤツめ、憎い演出を繰り出してきおるわい。
 ずっと前からゲルググもガンキャノンも、のどから手が出るほど欲しいと思っていたみゆき少年にとって、この出会いは衝撃的でした。しかも、その模型店に残されたガンプラはこれ1つだけ! もう運命を感じましたよ。心が躍りました。天は俺に、このガンプラを買えと言っているッ!

(*4)毎度毎度…くわしくはこちら↓
   第1回『ガンダム、Gファイターに立つ!?』
   第2回『父よ、それはソルティックだ!』
   第3回『おもちゃ売り場に戦場を見た!』
(*5)なぜかガンキャノン…なぜだろう。
   筆者はギャンが来るべきだと思うんだ。

  ▲機動戦士ガンダム 第37話「テキサスの攻防」より。
  テキサスコロニー内の戦闘にガンキャノンは登場しない。

(*6)この値段…確か1000円ぐらいで買った記憶があるのだが、
   さっき調べてみたら定価700円だった。あれ…?

「謀ったな、シャア!」
 家に帰って箱を開け、初めて情景模型という言葉を理解したみゆき少年。要するにこれ、動かないプラモだったんですよ。動かないんだぜ? な、ウソみたいだろ……。しかもスケールは1/250。今まで集めてた1/144シリーズとも並べられません。このキット内ですでに世界が完結してるんです。


 なるほど、そういうことかぁ。ほんとバンダイのヤツってば、お子様の購買意欲をかきたてるのがウマいんだから! てへ。だいたい考えてみれば、これはシャアの謀略でもなんでもなく、単に自分がパッケージの確認を怠っただけだもんね。それに、一気に3体もモビルスーツを手に入れたことには変わりないワケだし、れっきとした正規のガンプラなんだし、ズゴックのために泣く泣く抱き合わせでガン●ルとか買わされたときのことを思い返せば、あたい、全然平気だよ! よおし、こうなったらいっちょ、大きいお友達のお兄さんにも負けないような、本格的なジオラマ作っちゃおうっと。きっとみんな、びっくりしちゃうゾ!?……あれ? でも、なんでだろ。へへ……あたい、どうしちゃったのかな。なんか、目から汗が止まんないよ……。
 今にもポッキリと折れそうになる心を懸命に奮い立たせつつ、取説を読むみゆき少年。関節などの細かい部品もなく、固定ポーズの手足を接着してゆくだけということもあり、小学生にも楽に組み立てられるキットでした。なーんだ、ジオラマなんていうからいかにもアダルトな雰囲気だったけど、やってみると意外と簡単じゃん。ところが! 最後の最後に、想いもよらない試練がみゆき少年を待ちうけていたのです。

BGMは「荒野の果てに」で
 ちなみに表題の「荒野の果てに」という曲は、人気時代劇・必殺シリーズの記念すべき第一作「必殺仕掛人」の主題歌です。あの例の、パララ~……と高らかに始まるトランペットの音色のやつね。いやー、まさか自分が、仕業人の「やいとや又右衛門」(*7)を現実で再現するとは思いませんでしたよ。
 パッケージ写真を見ていただければわかる通り、ガンダムに襲いかかるシャア専用ゲルググの躍動感を表現するため、このキットでは針金を使ってプラモデルを空中に固定するんですね。もちろんそのまま針金をプラモに刺そうとしても針金の方が負けてしまいますから、バーナーで熱するなどの事前準備が必要になってくるわけです。
 母親が買い物に出かけているスキを狙い、台所に立つみゆき少年。ガスコンロに火をつけ、ゆっくりと針金を炙ります。ガスの蒼い炎の中で、次第に真っ赤に焼けてゆく針金。目の前に持ち、フゥと息を吹きかけてみる。鋭く研ぎ澄まされた尖端が、静かにオレンジ色の輝きを帯びる。みゆき少年の眼がギラリと光る! うーん、気分はまさに必殺。ゲルググを左手に持ち、その股間めがけて針を突き刺した、そのとき―!


(*7)やいとや又右衛門…必殺シリーズ第7作「必殺仕業人」に登場する殺し屋。
   表の稼業は鍼灸師で、それに使う針を携帯の印籠に仕込んだ火種で
   真っ赤になるまで熱し、標的の眉間や心臓に突き刺して仕置する。
   仕置の瞬間、敵が絶命するまでガクガクと震える描写が生々しかった。
   仕業人ならBGMは「さざなみ」だろ、という抗議はナシの方向で。
   だって、知らない人にはパララ~の曲の方がイメージしやすいじゃん。

よい子は絶対にマネするな。
 皆さんも想像してみてください。焼けた針金が、指に突き刺さった瞬間の痛みを。いや、本当にガクガクと震えるんですよ。なんとか根性でゲルググに針を刺しなおし、ようやくジオラマを完成させることができたものの、その代償はあまりに大きなものでした。以来、僕はΖガンダム序盤のアムロ(*8)のように、すっかり臆病な男になってしまったのです。
 翌日、苦労して完成させたジオラマを見てみると、自重でズブズブと深く刺さりすぎてしまったゲルググが、天を仰ぎながら絶命したようなポーズで、荒野の晒し者状態になっていました。諸行無常。
 最後に、賢明なる読者諸兄に僕からあえてひとつ言わせてください。
 火遊びはやめとけッ…!!(*10)

(*8)Ζガンダム序盤のアムロ…地下にモビルスーツが隠してある、
   の一言ぐらい言ってみたいものである。
(*9)臆病な男…尖端恐怖症がなんだ。
   人間、生きてりゃ弱点のひとつやふたつぐらいあるさ。
   それに、カイさんだって言ってただろ?
   「臆病なくらいで、ちょうどいいのよね……」
(*10)火遊びはやめとけ…後戻りできなくなるぞ。マジで。

次回は第5回『リアルタイプ、それは迷彩の罠』
ガンプラファイト、レディィィゴウッ!
次回の更新は11月29日(木)17時予定です。

岸本みゆき(フリー脚本家)

【プロフィール】
岸本みゆき(きしもと・みゆき)
1973年生まれ、フリー脚本家。巨大ロボと変身ヒーロー、時代劇をこよなく愛する熱血関西人。現在はテレビアニメ『結界師』のシナリオの他、『SDガンダム三国伝』の構成なども手がけている。

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