2007年10月22日 (月)
『おもちゃ売り場に戦場を見た!』
突然ですが、僕は人ごみとか行列といった類が超ニガテです。休日の繁華街やバーゲンセールといったものは論外ですし、正月の初詣なんかにも あまりいい思い出(*2)がありません。甲子園のライトスタンドは大好きなんですが、 帰りの電車(*3)の車内を想像するだけで気が遠くなってしまいます。巨人戦で敗れた日の帰りなどは、それこそ筆舌に尽くしがたい苦痛が伴います。
雑誌に載っているような有名レストランなども、待ち時間があるというだけで敬遠してしまいます。むしろ誰にも知られていないような、隠れた名店を探すほうが好きですね。
ちなみに最近お気に入りの新大久保にある韓国料理店は、いつ行ってもガラガラです(笑)。料理は超ウマいし、別に値段もそんなに高くないと思うんですが、なぜでしょうね。特にそこのサムギョプサルが最高なんですよ。豚の三段バラ肉を ジンギスカン風の鉄板(*4)で焼いて、キムチや 薬味(*5)などと一緒にサンチュで巻いて食べるんですが、これがなんというか、まさに口の中に生まれる肉と野菜の 小宇宙(*6)。ビールにも最高に合います。しかも野菜を多く食べることができるせいか、翌日にニンニク臭が残りにくいんですよね。社会人でも安心です。皆さんもぜひ一度お試しください。シメの料理には サムゲタン(*7)あたりを注文するのがオススメです。
(*1) アニメとラグビーの町…西武新宿線沿線にある、某アニメ会社のお膝元。
(*2) あまりいい思い出が…筆者が少年時代、近所に住む親戚のお姉ちゃんと
初詣に出かけた折、人ごみの中ではぐれそうになってしまい、
お姉ちゃん目掛けて思いっきり抱きついたところ、全くの人違いだった。
大人になってからの出来事でなくて、本当に良かったと思っている。
(*3) 帰りの電車…ハァイ、オマリーでおま。
やっぱり、阪神電車が一番、ヤァー。
阪神甲子園球場には、駐車場がありまへぇーん。
(*4) ジンギスカン風の鉄板…中央が盛り上がった鉄板。
脂を落とすためにこの形状になっているらしい。
最初に見た時は鍋のフタなのかと思った。
(*5) 薬味…ニンニクとか青唐辛子とか、いろいろ。
筆者のよく行く店では他に、焼いたタマネギや大根のスライス、
赤唐辛子とゴマ油をあえた白ネギなどを巻く。
(*6) 小宇宙…体内で爆発する宇宙的エネルギーのこと。コスモと読む。
サムギョプサルを食べて、君も聖闘士への第一歩を踏み出そう。
(*7) サムゲタン…韓国料理の鳥の煮込みスープのこと。
ザンスカールのモビルスーツっぽい名前だが、全然違う。
すいません、ガンプラのコラムでしたねコレ。
要するに、それだけ人ごみが苦手なんですよ。そんな僕が少年時代、一度だけ休日のガンプラセールに連れて行ってもらったことがあります。ガンプラセールとは何かというと、当時どこでも品薄だったガンプラを、大型百貨店などが大量入荷に成功した際、あらかじめ曜日を告知して一斉販売するというものです。
すでに 前々回(*8)、 前回(*9)と紹介しました通り、当時のガンプラの入手の難しさといえば相当なもので、社会現象といわれたドラクエIIIの発売や、たまごっちブーム以上だったのではないでしょうか。さすがに今はもうないと思いますが、昔は「抱き合わせ商法」なんてのがありましてね。まったく関係のない売れ残りのプラモデルなどを一緒に購入しないと本命のガンプラを売ってくれない、というようなことが実際にあったんです。僕もズゴック欲しさに、泣く泣く パチもんのガンダム(*10)を買わされたりしました。
そんな中で行われたガンプラセールです。有名デパートの主催ですから、もちろん抱き合わせなどありません。夢にまで見たガンプラが山のように積まれ、それがなんと買いホーダイ! しかし当然のことながら、関西一円から子供たちが大挙してやってくるわけです。大きなお兄さんたちもたくさん来ます。人ごみ嫌いのみゆき少年に、果たしてそれが耐え得るのか!?
(*8) 前々回…読んでね。→ http://www.gundam.info/content/23
(*9) 前回…さあ読もう。→ http://www.gundam.info/content/39
(*10) パチもんのガンダム…ガ●ガルとか、ガ●ダンとか。
ここではあまり詳しく書けないが、それこそ某国の某遊園地のような、
凄まじいパクリっぷりであった。
BGMは「地上の星」でお読みください
前回の一件ですっかりヘコんでいたみゆき少年の父が、起死回生の案として提案してきたのがこの「ガンプラセール突撃作戦」だったんです。休日を返上し、大好きなゴルフの誘いも蹴り、ただただ息子の喜ぶ顔が見たいというこの父の心意気に、みゆき少年は深い感銘を受けました。
「よし、往こう…!」
そしてやってきた当日の開店2時間前。みゆき少年と父は、デパートの前に居並ぶ凄まじい人の数に愕然としました。大通りにまで溢れかえった人、人、人…! その数、数十万!! というのはさすがに大げさですが、みゆき少年にとっては、あの大行列はそれほどの暴力的な数に映ったのです。けど、ここまで来て退くわけにはいかない! ガンプラへの情熱が少年を突き動かします。
「人ごみが何だ! 大きなお兄さんが何だ! 俺たちは最後まで戦うぞ…!」
開店と同時に店内に雪崩れ込む人々。目標はただ一点、4階おもちゃ売り場! 母の胎内を駆け抜けた、遥か産まれる以前の記憶が人々を突き動かすように、ただひたすらに走る、走る…! 無情にも目の前で閉まるエレベーターの扉。2番機もすでに人が溢れかえっている…みゆき少年はその中に父の姿を見ました。
「先に往ってくれ! 俺は階段を使う!」
エレベーターでの行軍を父に託し、階段をふたつ跳びに駆け上がるみゆき少年。しかし目指す4階にたどり着いた時、みゆき少年の体力はすでに限界を超えていました。
「こんな…こんなはずじゃなかったのに!」
ここから先のBGMは「世情」で
怒涛のごとく押し寄せる群集の勢いに飲み込まれてしまったのか、それとも普段から身体を鍛えていない自分が悪いのか。呆然と立ち尽くすみゆき少年の目の前でひとつ、またひとつとガンプラが消えてゆく…。
ザクが! ドムが! ムサイ…いや、武器セットすらも! 喧騒にかき消される警備員の声。迷子になって泣き叫ぶ子供。飛び交う怒号。こ、これが…夢にまで見たガンプラセールの現実なのか…!?
零れ落ちるひとしずくの涙。その時、みゆき少年の肩に手をやる一人の男がいました。エレベーターで先に着いていた父。
「ごめん、これしか買えなかった…」
そう言って、父が差し出した箱の名は…!!
「その者、蒼き衣をまといて…」
おお、グフ! それはグフ! 生涯忘れることなきその名は…グフ!
めぐり来る月日の中で、今も鮮やかによみがえるその勇姿。この胸に、魂に刻まれた雄々しき二文字。グフ、グフ…! 何度でも言おう! 俺はあの日、グフという名の勝利を この手に掴んだのだッ!!(*11)
(*11) その手に掴んだもの…ここでもう一度ソルティックが来てたら、
たぶんその時点で親子の縁は切れていたと思う。
次回は第4回『荒野に散った紅いゲルググ』
ニュータイプの修羅場が見られるぞ!
次回の更新は10月25日(木)17時予定です。
岸本みゆき(フリー脚本家)
【プロフィール】
岸本みゆき(きしもと・みゆき)
1973年生まれ、フリー脚本家。巨大ロボと変身ヒーロー、時代劇をこよなく愛する熱血関西人。現在はテレビアニメ『結界師』のシナリオの他、『SDガンダム三国伝』の構成なども手がけている。
© 創通・サンライズ
© サンライズ
© サンライズ
あなたへのオススメ
編集部イチオシ
PREMIUM BANDAI
プレミアムバンダイ