VR空間の中で、客観視点を用いたアニメの演出を実現する
【インタビュー参加者】
・井上喜一郎氏(バンダイナムコフィルムワークス):プロデューサー
・竹本圭佑氏(バンダイナムコフィルムワークス):プロダクションコーディネーター
・山本直輝氏(バンダイナムコフィルムワークス):CGアニメーションディレクター
・數藤恵理奈氏(バンダイナムコフィルムワークス):CGアニメーター
・平野潤也氏(バンダイナムコフィルムワークス):CGアニメーター
・橘川英史氏(バンダイナムコフィルムワークス):プロダクションマネージャー
『銀灰の幻影』の脚本制作はBNF(バンダイナムコフィルムワークス)が関西(リョウジ)氏に依頼していたが、劇中にインタラクションパートを組み込む必要があったため、MetaとAtlas Vの意見も聞きながら進められた。「関西さんの構成案に対して数多くの要望をいただいたので、脚本完成までに重ねたテイクは20を超え、約1年を要しました」と橘川氏はふり返った。本作の物語冒頭で、主人公は宇宙巡洋艦のエルガスティリに乗艦しており、暗殺任務のためにデルタザインで発進する。この発進までの間だけでも、ボタンを押して艦内モニタに映像を表示する、ハンドルを握って艦内の廊下を移動する、ワイヤーガンでデルタザインに搭乗するなどの様々なインタラクションが5分に1回程度の間隔で組み込まれている。「ユーザーに参加している実感をもってほしいとの判断から、インタラクションの数が増えていきました。加えて、現在と過去を行き来する回数を減らして、物語をわかりやすくしてほしいという要望もいただきました」と竹本氏は語った。本作の舞台は宇宙世紀0096だが、主人公の回想シーンなどのかたちで、それ以前の物語も小刻みに挿入される予定だった。その回数が、MetaやAtlas Vとのやり取りの中で減らされていったという。
既存のVR作品の多くは主観視点でつくられているが、鈴木(健一)監督はVR空間の中で客観視点を用いたアニメの演出をしたいと考えた。しかしVR空間ではユーザーが360度を見渡せるため、日本のアニメの歴史の中で培われてきた、視線誘導、上手・下手、広角・望遠などの演出手法が使えなかった。それをふまえて、ユーザーが物語を把握しやすく、没入感のある体験ができる脚本と演出のあり方が話し合われた。「ユーザーが酔うのを防ぐため、カメラは床と平行にする、極端なフカンやアオリは避けるなどの仕様が後から追加されたので、似たようなレイアウトになったカットは統合していった結果、カット数は当初予定よりかなり減りました。アニメだと尺が1秒前後のカットも珍しくないのですが、短すぎるとユーザーがカットの切り替わりを認識できず、混乱してしまうという指摘も入り、カット尺は2秒以上という仕様も定められました」(山本氏)。当初の全体尺はナラティブパートだけで83分、インタラクションパートも含めると100分を超えていたが、シーンの数を減らしたり、尺を短くしたりして、全体で90分程度に収まるように調整された。なお、絵コンテ段階ではインタラクションパートでも客観視点が使われていたが、その後のプリビズ工程で「主観と客観が混ざると、ユーザーが混乱する」との指摘が入り、インタラクションパートは主観視点のみで構成することになった。
A、B:デルタザインのコックピット。Aは客観視点、Bは主観視点で表現されている。
C:制作中、山本氏が使っていた本作の全絵コンテ。中をめくると、細かいメモが随所に書き込まれていた。「約2年間、リュックに入れて毎日持ち歩いていたので、ボロボロになっています(笑)」(山本氏)。本作の絵コンテは、鈴木監督と6人の演出が分担して手がけている。
D:金子祥之氏による、シーン6の絵コンテの一部。エルガスティリのMSデッキ上での、デルタザインとジェガンの戦闘シーンが描かれている。
E:西澤 晋氏による、シーン16の絵コンテの一部。フィクジィのジムと、ギラ・ドーガの戦闘シーンが描かれている。本作の絵コンテは、ガンダムシリーズに理解のある、ベテランの演出や監督経験者に発注された。「絵コンテが完成したシーンから、3ds Maxでのプリビズ制作を順次開始しました。最初に仕上がったプロローグやシーン1などのプリビズは、私自身も作業を担当しています。それ以降は、鈴木監督や別の作業者と一緒に発注打ちをやり、上がってきたもののチェックを担いました。プリビズは平野や高見澤(司)を含む5人ほどで分担しており、約2.5ヶ月かかっています。その後のアニメーションは1年以上を要しました。VR作品は通常のアニメの6倍の情報量がある上に、Meta Questで再生しないと最終的な見え方がわからないので、チェックの負荷も高く、鈴木監督も苦労なさっていました」(山本氏)
本作用に鈴木監督が制作した、6面が描ける絵コンテ用紙
A:鈴木監督によるプロローグの絵コンテの一部。360度の演出を伝えるため、本作専用の絵コンテ用紙を鈴木監督自らが制作した。前後・左右・上下の6面の画が描ける横長の用紙になっている。インタラクション・ナラティブ・作画(2D)のいずれにするか、主観視点(POV)・客観視点(Others/TPC)のいずれにするかも、用紙の左上で明示している。「描き上げるのに通常の3倍以上の時間と労力がかかるので、重要なシーンだけ6面の用紙で描いていただき、ほかは通常の絵コンテ用紙にしました。6面の用紙はイメージが伝わりやすく、プリビズやアニメーション制作はやりやすかったです」(橘川氏)
B:クライマックスとなる、シーン23の1カット目の絵コンテ。「ウソだけどケムリ流れる(ΖガンダムOP風)」という指示書きが楽しい。
C:完成映像。全画面の爆煙の中から、不気味にデルタザインが現れる。流れる爆煙はBNFがポリゴンで表現したものを、ALBYONがUnityで忠実に再現している。
6面をレンダリングした、プリビズのチェック用ムービー
A、B:中央にあるのが前面の画で、その中の青枠内で絵コンテのレイアウトを再現している。「Meta Questを装着した状態で目を動かさずに前面を見ると、青枠の内側しか見えません。その状態で目だけを動かすと前面の正方形の内側が見えて、頭も動かすと360度を見渡せます。そのためメインの演出は青枠の中で行い、左右でも戦闘を行なったりする場合は、爆発音などでユーザーの視線を誘導しました。青枠の内側からキャラクターが移動しても、360度の空間内には居続けるので、モブも含めた全員に演技を付ける必要があって大変でした」(山本氏)
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判型:A4ワイド
総ページ数:112
■特集:ガンダムCGの変遷と最前線 ・表紙
・[特集扉](2ページ)
・[PART 01:ガンダムCGの変遷](8ページ)
紹介作品:
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988)
『GUNDAM Mission to the Rise』(1998)
『GUNDAM THE RIDE ‐宇宙要塞A BAOA QU‐』(2000)
『GUNDAM EVOLVE』(2001~2007)
『SDガンダムフォース』(2004)
『機動戦士ガンダム MS IGLOO 1年戦争秘録』(2004)
『機動戦士ガンダム MS IGLOO 黙示録0079』(2006)
『機動戦士ガンダム MS IGLOO2 重力戦線』(2008〜2009)
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(2015〜2018)
VR映像『機動戦士ガンダム THE ORIGIN シャア出撃』(2017)
VR映像『機動戦士ガンダム THE ORIGIN -RISING-』(2018)
『SDガンダムワールド 三国創傑伝』(2019〜2021)
『SDガンダムワールド ヒーローズ』(2021)
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(2021)
『RX-93ff νGUNDAM from SIDE-F』(2022)
『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』(2002)
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(2022〜2023)
『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』(2024)
・[PART 02:VR映画『機動戦士ガンダム:銀灰の幻影』](22ページ)
TOPIC 1:ワークフロー
TOPIC 2:モデリング
TOPIC 3:作画
TOPIC 4:アニメーション
TOPIC 5:インタラクション・エフェクト
TOPIC 6:MRコンテンツ
・[PART 03:3Dアニメーション『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』](20ページ)
TOPIC 1:モデリング[モビルスーツ]
TOPIC 2:モデリング[キャラクター]
TOPIC 3:シネマティック
TOPIC 4:アニメーション
TOPIC 5:エフェクト