「機動戦士ガンダム、地球連邦軍ジャブローを創ろう」編　第1回

第１回 ファンタジー営業部とは何か？

前田建設工業株式会社の飯田橋本店からは、お堀の向こうに外堀通りと東京理科大学の大きな白い校舎がよく見える。春になると足下の桜並木が美しく咲き誇り、その下を新入生や新入社員が行き来する風景を見るのは、自分がその一部だった頃を少し思い出したりしてなかなかいいものだ。
その、木々が色づき始めた2010年3月、本店4Ｆのパーテーションで仕切られただけの会議室に、4人の男が集まっていた。

A部長	土木の総合評価チームでは毎日、案件毎に最適な提案は何かを議論しつづける仕事だったよ。各社とも試行錯誤の時期を過ぎて、ノウハウが蓄積されているからね。
B主任	日本におらん間に、さらに厳しゅうなりましたな。こっちは香港で「本場のお粥や！ 飲茶や！ 夜景や！」 言うて「ストーンカッターズ橋」にただ集中できたのは幸運やったわなぁ。んで開通の途端にここが復活やから、楽しいお仕事ばかりで・・・感謝せないかんわ。
D職員	その橋、岩でも石でもスパっと切れそうな名前ですけど、なんかいわれがあるんですか？
B主任	相変わらず気持ちいいほどひねりが無いのぉ。使こうてない脳みそは高う売れるで・・・ストーンカッターズっちゅうのは島の名前や・・・（小声で）なぜそういう島の名前かは聞くな・・・それで高さ約300m、全長約1600mという世界最大級の斜張橋やったからな、ウチの会社でも屈指の大プロジェクトに携われてよかったわ～と開通時にシミジミ想うたわ。
C主任	香港に居る間、美味しい料理ばかりで、太ったんじゃないか？
D職員	僕も夜景の綺麗さでは香港に負けない「the SOHO」の現場でしたからね。
C主任	俺も、実はBIMの件でちょっとその現場に関わってたんだ。何回か打合せに行ったけど会わなかったね。
D職員	なんだ～！じゃ、わかると思いますけど、うちの部もあそこで業務したいですよね～日本のトップクリエイターがプロデュースしたラウンジやフィットネス、そしてベイエリアの眺めも最高なスパ・・・。
B主任	ほな、まずはお前が自費でなんとかせいよ。皆、きっといいプラン浮んで、バンバン儲るさかい心配すな。固い投資や。・・・んでC主任、私、太って見えまっか・・・？
A部長	（様子を見ながらにこやかに）3年経ってもみな根っこは変わらないな。あとはどれくらい成長してくれたか、だな。

ここで、前田建設ファンタジー営業部 （*1）について紹介しよう。前田建設には2003年2月から日本の建設業界にとって唯一といっていい手付かずの未開拓市場である「アニメやゲームといった架空の世界」専門の営業部署が存在する。あちらの世界ではつとに知られた存在だ。そんな彼らが3年ぶりに再集結されるという発注とはどのようなものなのか・・・？　なお、これまでの活動内容については、書籍や 前田建設のホームページでチェックしていただける。

A部長	急な人事異動はウチのお家芸だが、それにしても今回は急な話でびっくりしたと思う。しかしそれに見合うだけの仕事なんだ。今回の発注者は・・・凄いぞ・・・地球連邦軍だ。
B主任	地球防衛軍ゆうてもなぁ。あれもこれもと多すぎますで。
D職員	物心ついてから、一体いくつの地球防衛軍の上を通り過ぎてきたのかしら私。
A部長	２人して同じ間違いをするな。れ・ん・ぽ・う、だ。レビルさんが率いる連邦軍だ。
D職員	（顔色が青ざめ、急ぎ携帯をつかむと、どこかに電話し始めながら部屋を飛び出す）
C主任	「大きなプレッシャー」のかかるお客さまですね・・・。
B主任	お、早くもガンダムを意識したコメントやな。さすが同世代や。
D職員	（なんだかスッキリして部屋に飛び込んでくる）とりあえず私の全人脈を動員できる体制は整えましたが、姉に連絡がとれません・・・。
C主任	レビル将軍ということは、一番最初の「機動戦士ガンダム」でいいわけですね。
A部長	そうだ。そして発注物件はズバリ「ジャブロー」なのだが・・・。
D職員	(壷を前にしたマ・クベのように)スゴい・・・かつて「ガンダムエース」誌2004年3月号や6月号で超概略検討したきりで心残りだったが、ようやく、6年ぶりに本望が果たせるのか・・・。（一転、レビル将軍のように考え込み）そうなると、ジャブローは相当極秘裏な工事になるな。でないとジオン軍がジャブローの詳細位置不明のままにコロニー落としを画策した、「ブリティッシュ作戦」が存在しないことになってしまうではないか。そもそも・・・。

B主任	（D職員の頭を軽く叩きながら）おーい、そろそろ現実の世界に帰ってこいよ・・・実は香港でもガンダムEXPOが開催されて「ガンプラ」も爆発的に売れてたみたいやった。アジアでもガンダムは大人気、てわけや。
A部長	ありがたいことに、発注者はこれまでの当部実績を高くご評価いただき、特命発注なのだが・・・
B主任	ぶ～ちょう。さっきから「なのだが」「なのだが」言うて、歯切れわるいですのぅ。
D職員	（さらに考え込んだまま）レビル将軍からの高い評価・・・我々もニュータイプ部隊のようですね。

人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、すでに半世紀が過ぎた宇宙世紀の時代・・・南米アマゾン川、ギアナ高地周辺の地下深く、地球連邦軍の総本部としてひっそりと佇む地底の巨大秘密基地、それが「ジャブロー」だ。広大な熱帯雨林のジャングルに守られ、万全の準備をして戦いを挑んできたジオン軍でさえ、その位置はもとより規模すら特定できずにいた。強固な地盤のおかげで通常兵器はいうまでもなく、核兵器による爆撃にも耐えうるとされる。地上に降り立つことを許さない対空砲・迎撃ミサイルによる鉄壁な迎撃体制、豊富な物資と長期戦にも持ちこたえられる自給能力と、まさに、難攻不落の要塞として完璧な防御力を誇る。

しかし喜んでばかりはいられない。検討に取りかかる前に解決すべき、大きな問題がファンタジー営業部には立ちはだかっているのだ。次回「ジャブローの軌道先史」。君は、読み続ける事ができるか！