イラスト作品集「MS少女NOTE 0079」刊行記念！メカデザイナー・明貴美加が語る“MS少女”デザインの秘密

──明貴（美加）さんは30年以上も〈MS少女〉＝〈モビルスーツのアーマーをまとった美少女〉を発表し続けていて、2019年からWebサイト「矢立文庫」にて「MIKA AKITAKA'S MS少女NOTE」をスタートさせました。「MS少女NOTE」はそれまでのMS少女とはデザイン・テキストも一新されています。この連載はどういった経緯から始まったのでしょうか？

明貴　矢立文庫が立ち上がる際に、サンライズさんから「MS少女の連載をやりませんか？」というオファーをいただいたのがきっかけですね。どういうコンセプトにするか、最初は手探りの状態でした。これまでのフォーマットでMS少女を描いていっても目新しさがないですし。

──現在も「月刊ガンダムエース」にてイラスト連載が継続中で、そことの差別化も必要になってきますよね。

明貴　それまでだとMSのオリジナルデザインを元に〈少女が着込むデザインにトランスレーション〉していく方法でやっていたんです。それを「MS少女NOTE」では、〈少女が着込むスーツとして、イチから新しいガンダムをデザイン〉しているんです。キャッチフレーズの「新しいMSが誕生する――。」には、そういった意味が込められています。

──MSを擬人化したものではないと？

明貴　「MS少女NOTE」ではまだ明確な世界観を提示してはいないんですが、〈MS〉と呼ばれているのは、イコールこの少女たちです。ただ原典は『機動戦士ガンダム』としているので、名前はガンダム、ガンキャノンとそのままなんです。ただ、誕生日と身長といった簡単なプロフィールは作っていますけどね。誕生日は基本的にテレビ放送時に初めて登場した日付にしています。RX-78-2 ガンダムだと第1話放送の4月7日とか。ですが、日付がダブってしまうMS、例えばガンキャノンだと劇場版の封切日にしたり、そのMSに関連した日付を当ててますね。

──まずはRX-78-2 ガンダムから手がけられたと思いますが、デザインとしては完全に新規ですよね。

明貴　新規ではあるんですけど、基本フォーマットはRX-78-2 ガンダムに準じてます。コア･ブロック･システムは、コア・ファイターがランドセルに変形して後ろにくっついている、という解釈にしています。これが今回のRX系の共通仕様にもなっていますね。胸回りはこれまでだと、RX系の特徴になっている箱形の胸部に丸みをつけて処理していたんですが、今回は洋服を装甲化したようなデザインに挑んでます。鎖骨の上にあるバルカン砲みたいなパーツは補助兵器で、地球連邦側の共通仕様のひとつです。

──脚は曲面のラインが印象的です。

明貴　RX系だと足首の関節をアンクルガードが覆っていて、いつも処理に悩んでいたんですよ。メカっぽさを強調したいときには有効なんですけど、女の子の細い足には野暮ったく見えてしまう場合も多くて。今回はアンクルガードをオミットして、ヒザからつま先まで流れるようなラインにしてみました。ふくらはぎの片側にある張り出しは補助推進装置です。ここにハードポイントも設けてあって、アタッチメントを付けてパワーアップしていくことも考えていたんですけど、コマンドガンダムでようやくその設定が活かされました（笑）。

──腕はインナーの上にアーマーが装着されている感じでしょうか。

明貴　今までだと腕に箱をスポッと通したような構成で、それもちょっと味気なく感じていたので前腕のアーマー以外はインナーにしています。

──なるほど。動力パイプがあった位置にアクセントになるパターンを配置しているということですね。脚自体のフォルムはオリジナルよりもスリムになってますね。

明貴　ガンダムもそうですが、大河原邦男さんが描かれるザクの足回りは裾が広がったようなラインになってますよね。あれは当時、流行っていたパンタロンを意匠化したものなのかなと思ってます。あの広がったラインをうまく処理する方法があるかもしれないんですが今回は省いて、ヒールの高い厚底ブーツみたいなデザインにしています。そこまで変えてしまってザクに見えるかなとも思ったんですが、ショルダー･アーマーやＬ字型シールドといった主要なパーツは変えていないので、ザクのイメージからはそんなに離れていないなと思ってます。カラーリングに関しては、シャア専用ザクは薄いピンクなんですが、このザクII Sタイプは赤味が強くなってます。だから〈紅い彗星〉なんです。ちなみに、「MS少女NOTE」の世界には「シャア」というキャラクターはいないので、このSタイプも「シャアザク」ではありません。ヘルメットを脱いでも金髪ではなく黒髪ですしね。

──ランバ・ラルや黒い三連星も「MS少女NOTE」の世界にはいないということなんですね。

明貴　「黒い三連星」という二つ名は出てきますが、ガイア、オルテガ、マッシュではないんです。

──MA（モビルアーマー）は、MS少女が乗り込むタイプとして設定されているのでしょうか？

明貴　基本的に乗り込むタイプかパワー強化タイプみたいな捉え方をしています。戦闘機や戦車に近いんでしょうね。原典の『機動戦士ガンダム』だとMAの大半は怪獣に近いデザインなので、「MS少女NOTE」ではそこを強調しています。

──ザクレロだとザクIIのMS少女が乗り込んでますね。

明貴　場合によっては旧ザク（ザクI）の子が乗っていたりだとか。MAはオリジナルのデザインから、あえて外れないようにしてます。ブラウ・ブロがいちばん悩みましたけど、主要なパーツは変えないですね。原典の宇宙世紀だとMAは本来「支援火器」の意味が含まれていたので、「だったら乗り物でもいいよね」と。「MS少女NOTE」の世界では、MSが主で、外付け的な装備のシリーズにMAというジャンルがある。ただ、始めからフォーマットを考えすぎると後で齟齬が出るので、無理に決めないようにしています。その時のデザインのまとまりのよさを優先しています。

──一年戦争編から「SDガンダム」をフィーチャーしたEX編、『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』を扱った0080編へと展開されていますが、セレクトの方針みたいなものはあるのでしょうか？

明貴　ジオン系に比べて、連邦系はガンダム、ガンキャノン、ガンタンク、ジム、ボールしかないんです。ガンダム系のバリエーションを増やしていくしかないとは思っていたんですが、ガンダムエースの連載と並行して「MS少女NOTE」をやっていくなかで、まずMSVはやらないと決めました。MSVだと、大きくシルエットやデザインが変わっている機体でもなければ、差分修正程度になってしまう。それを延々と見せられてもファンは飽きちゃうだろうな、と思ったんです。MSV以外のMSを探していたときに、武者頑駄無やコマンドガンダムを思い出して。発表してみたら、SDガンダムのファンから反響がすごかったですね。

──今回の書籍化では、描き下ろしイラストやインタビューも収録されているとのことですが、どんな構成でしょうか。

明貴　描き下ろしのカバーイラストはパーフェクトガンダムです。スタッフさんから常々リクエストをもらっていたこともあり、カバーとしてのインパクトも狙ってのセレクトですね。武器や蛇腹バンドなどは極力デザインに盛り込んでいます。後ろにいるのは〈謎のユニット〉ということにしていますが（笑）、機会があればギミックなどを発表していきたいですね。他にも赤いズゴックや量産型ゲルググを描き下ろしで収録しています。連載時のイラストは書籍用に改めてまとめつつ、コメントや設定テキストも充実した内容になっていると思います。

──最後にメッセージをお願いします。

明貴　嬉しいことに「MS少女NOTE」は矢立文庫でいつも上位3位内に入るほど高いアクセス数で、このたびの書籍化につなげることができました。応援してくださる皆さんのおがげです。ありがとうございます。「MS少女NOTE」の世界はまだ明かしていない設定やデザインもあり、ゆくゆくは発表していければと思っております。よろしくお願いいたします！

（ガンダムインフォ編集部）