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2019年8月19日 (月)

6人の学芸員が真剣勝負!富野展オープニング記念トーク「富野由悠季とは何者なのか?」イベントレポート

福岡展の会期はいよいよ9月1日まで!

 

国内外のアニメシーンに多大な影響を与えてきた富野由悠季監督のこれまでの仕事を回顧、検証する初の展覧会「富野由悠季の世界」が、福岡市美術館で好評開催中だ。

 

初日となった6月22日(金)には開会式が催されたほか、オープニング記念トーク「富野由悠季とは何者なのか?」も開催。富野監督と本展覧会を企画した6人の学芸員が登壇し、それぞれの視点から富野監督の実像に迫った。

 

オープニング記念トークには定員の180名に対し6倍を超える応募があり、当日は満席。「富野監督」という珍しいテーマで語られるイベントとあって、来場者は熱心に耳を傾けていた。それでは早速、イベントの模様をお届けしていこう。

 

さらに、福岡市美術館の学芸員・山口洋三さんよりコメントも到着したので、あわせて紹介する。

幕が上がると、ステージ中央に笑顔の富野監督が座布団に正座して登場。あたかも落語家のような驚きの演出に、来場者から感嘆の声が起こっていた。

 

学芸員が勢ぞろいし挨拶をした後、いよいよ展覧会が開幕しましたね、と振られた富野監督は「外交辞令ではなく、やってもらって良かったと思いました。美術館という、アニメの制作スタジオとは全く異なる、他の作品とも比較できる空間に作品が置かれたことで、大きな発見がありました。ここに来るまでは『年寄りの家の中からいろんなものを持ち出してさ』と罵っていたのですが(笑)。これから6会場を巡回することで、それぞれの土地が持っている空気感も見えてくるんじゃないかと思っています」と答えていた。

 

展覧会を企画するにあたり、やりがいと同時に大きなプレッシャーも感じていたという小林学芸員(兵庫県立美術館)にとって、全体を誰かが調整するのではなく、6人の学芸員がそれぞれ担当するパートを受け持ち、各個独立して作品に向かっていくという今回の方法は、学芸員同士の“真剣勝負”だったと振り返る。

 

それぞれが作品に応じた展示戦略を練るなか、『機動戦士Ζガンダム』を担当した川西学芸員(島根県立石見美術館)は、ガンダムMk-IIに関する「ガンダムは好男子」と書かれたメモを発見する。これは、富野監督によると、「メカが好きなデザイナーがガンダムの顔を描くと悪相になる。なぜだろう?」という経験から導かれたもので、「ガンダムはキャラクタライズされたもの」という意識を持つ必要がある、との戒めのようなものだったという。

 

また、『機動戦士Vガンダム』について、村上学芸員(静岡県立美術館)は「悲壮美と、19世紀の小説のような重厚さもあり、東欧の風土の中のカテジナの物語」と解釈。富野監督は制作当時を振り返って、キャラクターの身体性を表現すること、カテジナに若い女性でありながら目が見えなくなるという運命を張り付けてしまった作者の立場、ラストシーンを作るために1年間付き合ったことで、大変に荷重がかかり消耗したと語る。その消耗具合は、“カテジナの霊がついたんじゃないか”と思えたほどで、今回の展覧会という機会を得たことで「カテジナもこれで天に召されるでありましょう」と喜びを表わにしていた。

アニメ制作に欠かせない「絵コンテ」について、富野監督は「コンテを切ることでキャラクターが見えてくる」と語る。

コンテに書かれた文字情報とは、富野監督にとって「演技指導」そのもの。アニメとマンガで覚えたような言葉や流行りの芝居(演技)にアイディアが縛られてしまうようなことは、どの分野にもあることだが、プロの演出家とは、それだけでやっていけるほど甘い仕事ではない。ひとつの演技をさまざまな言葉で表現できる必要があり、自分の言葉を手に入れないと演技指導はできない。一緒に仕事をするスタッフに対しても、彼らが気づかないような言葉を入れていく必要があり、「言葉が使えると意外と便利だよ」と、若者へのメッセージも発信していた。

『勇者ライディーン』の頃のメモに「状況でキャラを動かすのではなく、関係性によって動かすべきだ」とある。監督は、印象的だったエピソードとして、プリンス・シャーキンというキャラクターが“化けた”瞬間を挙げる。声優を担当した市川 治さんがアフレコの際に「ちょっと、作りますよ」と言って芝居を変え、ハイトーンで「私はシャーキンだぞ」と言った時、絵に肉付けができた。芝居によってキャラが立ち、敵味方が表現されたことを体験したことで、改めて「関係性こそが作劇の基本」だと学んだという。

 

また、『OVERMANキングゲイナー』などを担当した村上学芸員は、「『キングゲイナー』や『∀ガンダム』は、時間的な距離が物語の柱になっていると感じました」と切り出し、美術館の存在意義を重ね合わせて次のように語った。

「美術館は基本的に市場原理に合わない存在です。まだ生まれていない人のために作品を残したり、とっくに死んだ人の作品を扱ったりするような。横軸だけだと経済的にマイナスなっちゃうんですが、監督の作品を理解していく上で、そういう(時間的な)縦軸が必要だという話が響きました。今後もそういう作品を作って欲しいです」

 

最後に、富野監督は新たな企画のために「鎌倉時代の日本史を調べ始めた」と明かす。

当時の人々は暮らしの寄る辺として「血縁関係」を大切にしており、それが記憶の底辺、社会生活全体に響いていた。中世以降は家系図が広まり、未来や過去も血縁関係を基にして認識できるようになっていく。逆に近代は、親子三代のような肉感的な血縁の感覚を忘れ過ぎているから、未来を考える意欲を持てないのではないか?と考え始めた。未来とは、未来論が作るのではなく、人間関係の景色が作るもの。アニメでも映画でも舞台でも小説でも何でも、人間関係を描くドラマツルギーを心から受け取って、生活を確立していくことこそがニュータイプ論なのではないか、と語っていた。

 

 

展覧会「富野由悠季の世界」の福岡市美術館での会期は、9月1日(日)まで。その後、兵庫、島根、青森、富山を辿り、2020年9月から開催される静岡県立美術館まで、全国を巡回する。

ぜひとも足を運んでみよう。

 

 

福岡市美術館学芸員・山口洋三さんよりコメント到着!

6月22日に始まった「富野由悠季の世界」も残すところあと2週間。ご来場の皆さんが、実に熱心に、そして長い時間をかけて展示に見入っている姿を見て、この展覧会が実現できて本当に良かったと実感しています。

富野監督のあふれんばかりの創造力に触れる絶好の機会!そこにいるまだの人、「見なけりゃ人生暗いぞ!」

 

 

展覧会「富野由悠季の世界」開催概要

 

【開催情報】

  • 第1会場

福岡市美術館

会期:2019年6月22日(土)~9月1日(日)

  • 第2会場

兵庫県立美術館

会期:2019年10月12日(土)~12月22日(日)

  • 第3会場

島根県立石見美術館

会期:2020年1月11日(土)~3月23日(月)

  • 第4会場[予定]

青森県立美術館

会期:2020年4月18日(土)~6月21日(日)

  • 第5会場[予定]

富山県美術館

会期:2020年7月~9月

  • 第6会場[予定]

静岡県立美術館

会期:2020年9月~11月

 

【公式サイト】

http://www.tomino-exhibition.com

 

【協力】

サンライズ、東北新社、手塚プロダクション、日本アニメーション、オフィスアイ

 

【企画協力】

神戸新聞社

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